楽器の輸入出規制をしているワシントン条約(CITES)とは?
(イメージ映像です)
近日、日本の老舗楽器屋がワシントン条約で取引が規制されている木材を不正に輸入しようとしたとして取締役を逮捕という衝撃のニュースが流れました。
今回のニュースは2024年今年1月~2月、ワシントン条約で国際取引が規制されている「ツルサイカチ属」の木材50枚を、パラグアイから密輸しようとした疑いが持たれています。
2018年以降に20回から30回ほど輸入し、実際にギターとして販売していたなどと容疑を認めておりを関税法違反(虚偽申告など)に問われています。
ところで、なんとなく知っていたハカランダの輸入規制をしているワシントン条約を改めて まとめてみたいと思います。
(イメージ映像です)
■ワシントン条約が出来た背景
現在、世界の各地でさまざまな野生の動植物が絶滅の危機に瀕しています。その理由の一つが、人間による野生生物の「過剰な利用」です。
生きた動植物に限らず、植物の種や動物の羽、牙、爪、毛、骨などこうした人間による過剰な取引によって、絶滅するおそれのある野生生物を保護する国際条約が、「ワシントン条約(CITES)」です。
ワシントン条約(CITES)とは、正式名称を「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引における条約:Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora」といい、アメリカのワシントンで1973年に採択し、1975年に発効しました。
■ワシントン条約にも3段階ある
べっ甲や象牙が一番有名とは思いますが木材でもローズウッドやマホガニーも対象となります。
現在、取引状況と生息状況によって、附属書にはⅠ~Ⅲの三つのレベルが設定されており、それぞれ規制の内容が定められています。
附属書I
絶滅のおそれのある種で取引による影響を受けている又は受けるおそれのあるものとし
商業目的取引は禁止
学術研究を目的とした取引は可能
輸出国・輸入国双方の許可書が必要
附属書Ⅱ
現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制しなければ絶滅のおそれのあるものとし
商業目的の取引は可能
輸出国政府の発行する輸出許可書等が必要
附属書Ⅲ
締約国が自国内の保護のため、他の締約国・地域の協力を必要とするもの
商業目的の取引は可能
輸出国政府の発行する輸出許可書又は原産地証明書等が必要
特に楽器に関係があるのは附属書2になるのでほとんどで掲載された種については、生息国の政府が、取引が持続可能であることを確認することを条件に、許可書の申請など必要とされる手続きを踏めば取引が可能ですが、ハカランダのみ附属書1となります。
■改正によって楽器は許可さるようになった
1975年から始まったワイントン条約ですが2017年のCITESの改正によってローズウッド種全種、マホガニーの一部が海外取引禁止の全面対象になりました。しかしながらローズウッド、マホガニーをよく使う楽器も対象となるため 楽器メーカーとミュージシャンの負担が増大。その為、団体が移動に関して特例を設けなければ音楽業界と音楽文化の発展に悪影響が及ぶと訴えました。その結果2年後2019年にローズウッド、マホガニーが素材で使われている楽器、パーツ、アクセサリーは許認可無しで海外へ移動や発送ができるようになりました。ただし掲載された種の木材の重さが、船積当たり最大10キログラムまでの完成品 であることをインボイスに記載する必要があります。
ただし製品化されていない材木や原材料は引き続き海外取引禁止。また最も希少ともいえるブラジリアンローズウッド(ハカランダ)はCITES1類として製品化されていても海外取引禁止となります。
■該当する材は何?
楽器に関係する木で規制されている主な木
ローズウッド
ホンジュラス・ローズウッド、ココボロ・ローズウッド、紫檀、ニューハカランダ
マホガニーとは正確に言うと キューバンマホガニー オオバマホガニー(ホンジュラスマホガニー) メキシカンマホガニー 3種のみで
代替え材として知られるアフリカンマホガニーはセンダン科カヤ属
サペリマホガニーは センダン科エンタンドロフラグマ属でマホガニーではありません。
(Dalbergia spp. ツルサイカチ属の主な種)Dalbergia cochinchinensis – サイアミーズ・ローズウッド(シタン)Dalbergia baronii – マダガスカルローズウッド(パリサンダー)Dalbergia retusa – ココボロ(サザン・アメリカン・ローズウッド)Dalbergia stevensonii – ホンジュラス・ローズウッド(ノガエド、ニュー・ハカランダ)Dalbergia sissoo – インディアン・ローズウッド(シッソノキ)Dalbergia latifolia – イースト・インディアン・ローズウッド(ソノケリン、インドネシア・ローズウッド)Dalbergia melanoxylon – アフリカン・ブラックウッド(グラナディラ、アフリカ⿊檀)Dalbergia cearensis – キングウッドDalbergia decipularis – チューリップウッドDalbergia frutescens – ブラジリアン・チューリップウッドDalbergia tucurensis – ユカタン・ローズウッド(パナマ、ニカラグアン・ローズウッド)Dalbergia spruceana – アマゾン・ローズウッドDalbergia palescrito – メキシカン・ローズウッド(パロエスクリト)など
2017年以降「ツルサイカチ属」のすべて「ブビンガ属3種」および「アフリカローズウッド」が対象となる
グラナディラ、ブビンガ、レンガスも対象
■ワシントン条約該当の楽器の輸入出の販売について
ワシントン条約(CITES)に該当する楽器の輸出入および販売は、厳しい規制の下で行うことが可能です。これらの規制は、絶滅のおそれのある野生動植物の種を保護するために設けられており、以下の条件を満たす必要があります
1. 輸出入許可の取得
附属書Iにリストされている種を含む楽器の商業取引は原則禁止されていますが、例外的に非商業目的(学術、教育、個人利用など)での取引が認められる場合があります。その場合でも、輸出国と輸入国の両方から特別な許可が必要です。
附属書IIにリストされている種を含む楽器の輸出入は、輸出国の管理当局からの許可が必要です。この許可証は、取引が当該種の存続を脅かさないことを確認した上で発行されます。
2. 国内法による規制
各国はワシントン条約の規定に基づき、国内法を整備しています。例えば、日本では「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」により、CITES対象種の取引に対する規制が設けられています。
3. 木材の証明書の必要性
対象となる木材を使用した楽器の輸出入には、CITESの許可証や証明書が必要です。これには、特定の木材の合法的な取得を証明するための書類が含まれます。
4. 違法取引の防止
CITES対象種を含む楽器の違法な取引は、厳しく取り締まられます。違反者には罰金や刑事罰が科される場合があります。
販売について
CITESの規制を遵守した上で、適切な許可を得ている場合、楽器の輸出入および販売は可能です。販売を行う際には、購入者に対しても合法的に取得されたことを証明する書類を提供する必要があります。
① 附属書Ⅱのローズウッドであること(つまりハカランダ、ブラジリアンローズウッドではないこと)
② ローズウッド部分の重量(b の場合のみ)
をインボイス等に明示し、税関において条約適用外であることが確認できるようにする必要があります。
結論
ワシントン条約の規制に該当する楽器の輸出入および販売は、厳しい管理と許可の下で可能です。適切な手続きを経ることで、合法的に取引を行うことができます。
■まとめ
.商用で売買目的でも附属書II以下は ちゃんとローズウッド部分の重量をインボイス等に明示し、税関において条約適用外であることが確認できるようにすれば楽器は販売OKです。
・材料のままはダメ。
とはいえ虚偽の申告をして材を輸入するくらい魅力的な材
今回の件はツルサイカチ属としていますがおそらくハカランダでしょう。ヴィンテージギター、ベースの指板に多く使われている木材。いまやそれらは100から数千万と楽器の金額が高騰する昨今。ヴィンテージ楽器から放たれるサウンドと見た目。その魅力に惑わされずに正当な物を扱っていくことが重要です。
著者 マイスター大崎
チバカン楽器 代表
ESPミュージカルアカデミーギタークラフト科リペアコース卒業後 ヤマハミュージックトレーディング内にてMARSHALLの修理会社の門をたたく。
勉強不足を感じ退社後 ROLANDの修理会社にて10年間ほどアンプ、エフェクターの修理業に従事。
退社後 地元の大型複合リサイクルショップ【千葉鑑定団】へ入社。店長を経験後 楽器専門【チバカン楽器】を立ちあげ今に至る。
愛機はFender TelecasterBass1969 、Chaki ウッドベース、
他ジャパンヴィンテージのギターを多数所持。趣味は【H2Y Labolatory】名義でエフェクターの改造や製作をしている。
電線や古いコンデンサー好きで特にオイルコンデンサーの匂いが好き。エロくて変態ということはベーシストの特徴。